東京ドーム「赤い夜」レポート
BABYMETAL ワールドツアー 2016 / by MegaTaro
Report: Tokyo Dome "Red Night"
BABYMETAL WORLD TOUR 2016
published on 2016/12/04Review
遅くなりましたが東京ドームコンサートのレポートを公開します。BABYMETALについて予備知識の無い方にもわかるように基本的な事柄も記載しています。
東京ドームへ行ってきました。BABYMETALの2016年ワールドツアーの最終2DAYSコンサート初日、9月19日「赤い夜」です。
ひとことで言えば「圧倒的」でした。すべてにおいて「高品質」でしたが、とりわけSU-METALの歌唱と、ステージの構造や照明を含む会場の演出は特筆すべきものでした。
会場に足を運ばせる力
遅ればせながら、私にとって初のBABYMETALコンサートです。
現在進行形でBABYMETALという「事件」が起きているのですから、自分の目で「目撃」しておかなければ、という思いから足を運びました。
しばらくコンサートやライブから遠ざかっていました。ネット上を見ると、そういった「久しぶり自慢」のような、「開きなおり」のような書き込みをいくつも目にしました。
中には「それって、ビートルズの解散から間もない頃じゃないの?」と突っ込みを入れたくなるような、1970年代前半以来だと書いている人もいます。20年ぶりくらいは珍しくありません。
そういった人たちまで掘り起こしたのは、すごい。
ブルーレイやDVD、ネット動画を見るだけではなく、実際にコンサート会場に足を運ばせるだけの力──魅力と言っていいでしょう──が、今のBABYMETALにはあるわけです。
老若男女。ほんとうに幼児から年配者まで
そういったことが、客層に表われていました。
通常、コンサートではファンの性別や年齢層が一定の範囲に納まっているものです。アイドルのコンサートであれば10代から20代のファンが多く、クラシックならば中高年が多いでしょう。
しかし、開演よりだいぶ早くから東京ドームに集まった人たちを見ると──コスプレをしたり、BABYMETALのTシャツを着た人たちが半数以上いました──老若男女が入り混じっていました。
若いほうは、幼稚園児か小学校低学年の女の子がBABYMETALのコスプレをして父親や母親に連れられて来ている、というパターン。
一方、ロックや洋楽に熱中した世代らしき60歳代夫婦と見受けられる二人連れもいる。
20代から40代が全体の3分の2くらいで、10代以下と50代以上が3分の1くらいという印象でした。
ネット上で知られている海外の有名なファンも含め、外国人も目につきました。
知らない人が来場者を年齢だけで見れば、幼児から年配者までそろっていて、いったい何の集まりかわからないような状況でした。
(注:テレビやブログなど個々のメディアによっては「中高年の男性ばかりだった」「若者ばかりだった」など実態とは異なった説明をしている事例が見受けられました。開演前の集合場所によっては来場者の年齢層に片寄りがありましたが、全体として見れば前述のように老若男女さまざまな人たちが来場していました)
▼記念撮影をするコスプレ姿の女の子たち

▼入場階段で開場を待つ人たち。こちらは年配男性が多め

5万5,000人×2日間
私は、激しくヘドバンしながら参戦する!というよりは、座ってじっくり見たかったので、会場全体が見渡せる外野上方の席、通称「天空席」狙いで、あえてアリーナ席は避けてチケットを購入し、意図したとおり2階席になりました。ステージが遠いのは承知していたので、8倍の双眼鏡を持参しました。
BABYMETALは音楽としても、プロジェクトの進め方としても注目しているため、仕事のスタッフと一緒に二人で行く予定でしたが、スタッフが都合で行けなくなり、隣のシートは空席になりました。
会場内は、そういった何らかの都合で来られなかったような空席がたまにあるくらいで、ほぼ満席でした。主催者発表の5万5,000人×2日間=合計11万人という入場者数はそのとおりだと思います。
集大成
会場の照明が落とされ、コンサートの冒頭でスクリーンにKOBAMETALが登場しナレーションが流れました。
「2日間のコンサートで、一度演奏した
2日間で演奏曲のダブりは無し。つまり、2016年時点で発表されているBABYMETALのスタジオアルバム2枚の楽曲すべてを演奏するであろうことが明らかになりました。
またナレーションで"おねだり大作戦"という言葉が聞こえました。語尾が聞き取れなかったのですが、2016年ワールドツアー最初のウェンブリーで「おねだり大作戦はもう歌わない」旨の紙芝居があり、今回あえて曲名を出したのは、「おねだり大作戦もやるよ」という意味だと理解しました。
2014年日本武道館の赤い夜・黒い夜は、一部の曲の入れ替えはあったものの基本的には同じ曲が2日間演奏されました。
しかし、今回2016年東京ドームの赤い夜・黒い夜は、2日間で完結するひとつのコンサートであり、これまでの楽曲を網羅する集大成的なものである、というわけです。
(注:最終的には、ステージでの再現が困難と思われる2ndアルバムの"From Dusk Till Dawn"1曲のみが除外され、2日間で1stアルバムから13曲、2ndアルバムから12曲、合計25曲が演奏されました。"From Dusk Till Dawn"は赤い夜の終演後、CD音声がBGMとして会場内に流されたそうです)
オープニングはノリノリ
コンサートが始まりました。
私はシートに座ってじっくり見るつもりでしたが、神バンドの演奏が始まると同時に、周囲の観客が全員、立ち上がってしまいました。
前席の人も立ち上がってしまい、階段席ではあるものの、前方が見えないので私もしかたなく立ち上がりました。
でもそれは、観客の「座ってなんかいられない!」という意気込みの表われであり、ちょっと熱く感じた部分です。
結局、中盤以降に疲れた観客が曲と曲のわずかな時間に数秒程度腰を下ろすくらいで、基本的には最後までずっと立ちっぱなしでした。
オープニングは次の3曲でした。
- Road of Resistance
- ヤバッ!
- いいね!
"Road of Resistance"と"ヤバッ!"は今年2016年4月発売の2ndアルバム収録曲ですが、ライブでは昨年2015年から演奏されていて、公式動画を含めネット上に多数の動画があります。"いいね!"は1stアルバム収録の定盤曲です。
冒頭の3曲は観客のノリもよく、みんな体を動かしていました。
SU-METALの歌声に聞き入る観客
4曲目は"シンコペーション"でした。
2ndアルバムで初めて発表された楽曲で、ネット上を探しても動画はほとんどありません。(注:2016年9月時点)
東京ドームのリハーサル的な目的があったと言われる8月の大阪・東京・名古屋の「白ミサ」で初めて演奏され、今日が世界でまだ4度目の演奏です。
ギターのイントロが流れ始めると、会場内が「何だ?」という雰囲気に包まれ、次の瞬間「ワーッ」という歓声が上がりました。歌が始まるとみんな「のる」というよりは「食い入るように見入る」「聞き入る」感じになりました。このようすを目に焼き付けておこう、といった雰囲気です。
5曲目は"Amore - 蒼星 -(アモーレ)"。
2ndアルバムで初めて発表された楽曲で、海外のファンカムはいくつかアップロードされているものの、コンサート会場で聞いたことのある日本人はまだ少ないはず。
SU-METALの歌声が東京ドームに響きわたり、よく通る声に魅了されて、観客はただただ耳を傾けて聞き入る、といった感じでした。
その後のネット情報によると、初日は会場の音響設定が悪くて2日目は改善されたらしいのですが、悪かったといわれる音響でもSU-METALの歌声の素晴らしさは十分に伝わってきました。"アモーレ"はスタジオ収録の2ndアルバムではやや平板な印象がしましたが、ライブでは声に表情があり、別物に聞こえました。
歌唱に安定感があり、しかも、もっとうまく歌えるようになるだろうと期待させるだけの伸びしろを感じさせる歌声でした。
「BABYMETALをBABYMETALたらしめているものは何か?」
この質問に対する答は人それぞれでしょうが、私は「SU-METALのボーカルは欠かせない」ということをあらためて確信しました。
その後、コンサートでは世界初披露となる"Tales of The Destinies"や定番曲などが演奏されましたが、観客の反応は「聞き入る」「見入る」感じが強かったように感じました。
「ノリが悪い」ということではなく、聞き入るだけの、見入るだけの素晴らしい歌声であり、パフォーマンスだった、というのが実感です。
2ndアルバムの評価
赤い夜では1stアルバムから5曲、2ndアルバムから8曲、合計13曲が演奏されました。2ndアルバムの楽曲の評価について簡単にふれておきます。
ひとことで言うと、「スタジオ収録アルバムを聞くのと、動画を含めライブを聞くのとでは、同じ楽曲であっても印象が大きく異なる」ということです。
ライブのほうが、2段階くらい良くなっています。
2ndアルバム収録曲については賛否ありますが、スタジオ収録音声だけでは評価しきれないというのが私の考えです。
今後2ndアルバムのレビューを書くつもりですが、現時点では赤い夜で演奏された2ndアルバム収録曲は十分に素晴らしかった、と言っておきます。
ドームの広大な空間を活かした光の演出
コンサートそのものに話を戻すと、会場内の演出も素晴らしいものでした。照明や炎などが、東京ドームという会場の広がりを活かして有効に使われていました。
たとえば、レーザー光線。レーザーはずいぶん前からコンサートで使われていますが、当初は線状に照射されステージに若干の彩りを添える程度でした。その後、高度な使用が可能になっていったわけですが、今回のBABYMETALのコンサートでもさまざまな手法がふんだんに使われていました。
レーザー以上に素晴らしかったのが通常の光を使った演出であり、ステージからドームの天井に向かって光の柱が照射され、本物の建造物のように見えました。また、天井に回転する花びらのような花火のような模様が照射されたりと、ふんだんに使われ、天井の高さやドームの奥行など空間の広がりをきわだたせる表現がされていました。
さらには炎が連続して上がったりと、見ごたえのある演出になっていました。
私は2階席だったため「前方で繰り広げられる光のショーを見る」感じでしたが、ステージ周辺の観客にとっては「光の空間の中に身を置く」ような感覚だったのではないでしょうか。
他のアーティストやアイドルでも近年の演出は優れたものが増えていますが、それらと比べても、今回の演出は突出していたと思います。
巨大なステージ
またステージの構造も特筆すべきもので、直径20メートルくらいの巨大な円形ステージがグランド中央に据えられていました。
円形ステージはレコードのターンテーブルのように回転する仕組みになっていて、 何曲かは3人が回転しながら歌ったり踊ったりしました。
円形ステージからは3方向に向かって西洋の棺桶型の花道が客席に伸びており、花道の上には直径約3メートルの小型円形ステージが載っています。小型円形ステージは花道の上を移動する仕組みになっていて、後日ネット上ではロボット掃除機になぞらえて「ルンバ」と呼ぶ人もいました。
また、巨大なターンテーブルの上方には、これまた巨大なバウムクーヘンのような円筒形の物体があり、その外周がスクリーンになっていてステージのようすが全周に大きく映し出されていました。
さらにバウムクーヘンの上面は高所ステージになっていて、何曲かはそこで歌われました。歌声だけが聞こえて、どこかと探したら、バウムクーヘンの上で歌っていた、ということが何度かありました。地上約20メートルとのこと。
また、入場時に観客全員に配られ、首に巻きつけていたコルセットが、エンディング近くで一斉に光り会場を埋め尽くすという演出もありました。赤い夜では"THE ONE"で白く光り、黒い夜では"イジメ、ダメ、ゼッタイ"で赤く光ったそうです。
東京ドームという空間の広さを活かす工夫が幾重にもされていることがわかりました。
▼巨大な円形ステージ

▼レッドナイトのコルセット点灯シーン

歌舞伎はすでに江戸時代に花道やせりがあって見せ方を工夫した舞台演芸として隆盛を極めていましたが、21世紀初頭の現在に使える技術を最大限に組み合わせた演出だったと思います。
この演出を超えるには、ステージという形式ではなく、3D空間をバーチャルに再現するような技術を使って観客がどこか別の場所にいるような演出をするくらいしか方法はないのではないか、と思いました。
いずにせよ、ステージ演出としては、可能なかぎりのことをやっていたと思います。
YUIMETALとMOAMETAL
YUIMETALとMOAMETALは当然のようにかわいくて、当然のようにキレのあるダンスが素晴らしかったです。コンサート冒頭、どの曲だったか、双眼鏡でのぞいたスクリーンの中で、二人とも感きわまって涙を流しているように見えました。汗だったのか、涙だったのか。
また、双眼鏡でのぞいた巨大スクリーンの網目に、光の点の集合として映し出されたゆいもあの映像の手前を、ワイヤーで吊られたビデオカメラの黒いシルエットが通過したのが、まるで映画「ブレードランナー」の近未来シーンのようでした。
神バンド
演奏はいつもどおり水準以上の素晴らしいものだったと思いますが、大会場ゆえ席によっては音響のまずさを指摘する声が一部にあるようです。私は特に気になりませんでした。
ギターの大神様が時々ステージ上を移動していましたが、基本的には定位置での演奏でした。私の席からは神バンドが遠く、ステージの柱の陰になりがちだったこともあり、ようすがあまりわかりませんでした。
今後、ブルーレイなどでもろもろ確認するつもりです。
観客
客席はステージ付近を含めすべてがイス席でした。席から離れることは禁止されていたため、観客は立ち上がっていたものの、モッシュはありませんでした。
これまでの映像作品では観客の盛り上がった様子も加えられていますが、どういった編集をするのでしょうか。
赤と黒が逆
結果的に、初日「赤い夜」と2日目「黒い夜」の名称と演出が逆でした。
黒い夜に、
- コスチュームに赤があしらわれていた
- "紅月 -アカツキ-"を演奏した
- コルセットが赤く光った
赤い夜のコスチュームは金色を散りばめた黒でした。
あれこれと都合があったのでしょうが、特段、問題はありません。
リアルタイムで把握できたのは一部のみ
コンサート終了後、テレビの情報番組で映像が一部放送されたり、ネット上にファンの感想や情報がアップされたりして、それらを見ると会場では気づかなかったことがいろいろとわかります。
その場では情報量が多すぎて、脳がリアルタイムでは理解しきれていないでしょう。そのとき気づいたこと、印象に残ったことは全体のほんの一部にすぎず、把握しきれないものをポロポロと取りこぼしながらその場にいたのだと思います。
来年2017年だと思いますが、ブルーレイが出たら、あらためてじっくりと見たいと思います。
今にして思えば、都合をつければ2日目の黒い夜にも足を運ぶことができたので、2夜連続で見ておくべきでした。
by MegaTaro